午前の部

疾走。終了。

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「麻酔はいやだ、かならず気分が悪くなる」という70歳男性。抜かなければならない歯を、半年がまんしていて、今日、「もうだめだ、昨夜は眠れなかった」とやってきました。心配なら、気分が悪くなってもすぐに対応できる総合病院の歯科を紹介するから、と、前にも言ったことがあったのだけれど、今日は、なぜか、もう気分が悪くなってもいいから、ここで抜いてくれ、という。むーん。いやね、その人とも長いおつきあい、どうして気分が悪くなるか、というと、薬剤へのアレルギー反応だとか、そういうのではなく、緊張しすぎて血圧が下がってしまう、という、そういう人なのだ、ということは私にはわかっているけれど、本人は、アレルギー体質だし、アスピリン注射でも気分が悪くなったことがあるし、と、とにかく麻酔をすると気分が悪くなる、と決めている様子。「そんな、決めなくても」と私が言ったところで「いやいや」と決めたまま、がんとして譲らない。でも、「15分くらい気分が悪くなるのを我慢すればいいことだから」と本人、まあ、その理論自体が矛盾といえば矛盾なのだけれど、とにかく今日は私が麻酔をして歯を抜くことになりました。

いやー。私、汗かきましたよ。緊張して。

で、結果は、といえば、なーんにも気分は悪くなく、麻酔をゆっくり打ったあとに、「え?今、先生、じーっとしてるし、何してるんや、と思ってた」とのたまう。どうやら針を刺したことに気づかなかったのが幸いして、その後もゆっくりゆっくり麻酔薬を入れていったので、感じなかった様子。はー。なんだよー。「ほんとに麻酔したんですか」と訝るものだから、しましたよぅ、でも心配だろから、もうちょっと待ってから抜きましょう、などと、世間話(話題は無農薬野菜は信用ならぬ、という彼の主張、子どもの頃に畑をしていた経験上、あんなに虫のつかない野菜ができるわけない、という)をしながら、おもむろに歯を触ってみて、「触ったの、わかります?」などと聞いてみたところ、「もう一回触ってくれ」とおっしゃる。どこまでも疑い深い。実はその時点で、もう歯を抜く第一段階は行っていて、麻酔が効いていなければ、飛び上がる(多分)痛さなはず、それでも私は「んじゃ、これ感じますか?」と続け、「大丈夫な気がする」とお許しをもらってから、えいやっ、と歯を引きちぎる。あ、いや、ふつうはそんな抜き方しませんよ。今日の場合は、もう、どうしようもない歯を引っ張ってとる、という感じだったので、そんな感じ。んで、終わって一言、「平気でしたね」。

いやー、私、緊張しましたってばー。と笑って、お大事に、と送り出したけど、いやー、ほんと、その間、朝から咳き込んでいたのに、一度もでなかったもんね。すごいものです。